内部統制での指摘事項
次から次へと怒涛の攻撃を受け、気が休まる暇もない毎日
上場企業において、日本企業でも内部監査が行われているかと思います。外資系企業には、多くの企業にInternal Audit(内部監査部門)があり、私が勤めていた会社では、内部監査の結果報告は担当役員を介さずに内部監査の責任者から、直接本社CEO、CFO、担当役員等に、同時報告がなされていました。事業担当役員が途中で、握りつぶすだとか、報告内容を変えるということが事実上できない仕組みでした。
私の前任者が突然辞めることになり、十分な引継ぎもなく私は就任したのですが、日本国内のことは社内で聞きますが、本社報告事項や改善を要する課題等、本社との関連事項でわからないことは本社のファイナンス部門に、日本時間の夜中に直接電話をかけて教えてもらいながら、業務を進めていました。
12月決算の11月に入社して、背景となる考え方など十分な背景知識もないため、見よう見まねで、米国会計基準での決算をするのですが、日本の経理担当者も知らないことが多く、相当困りました。
KPMG(当時はピートマーウィック)の会計監査では、監査差異、要修正事項が監査調書3枚にびっしり書かれてしまいました。その直後に、内部監査チームがやってきました。まあ、私の入門試験のようなものだったのでしょう。
よく考えてみると、米国本社からするときわめて当たり前の話で、CFOが変わり問題点をみつけておくという、リスクマネジメントの常道だったと、今は客観的に思えます。しかし、当時は次から次へと怒涛の攻撃を受けて、気が休まる暇もなく、ただただ、懸命に目の前に生じる事柄を、こなしていたように感じます。
その内部統制でも、いろいろと丁寧に指摘事項が出されました。
逃げずに、恐れずに立ち向かい、やるべきことを愚直にやる
報告書を最終化する直前に、内部監査をうけた子会社側のマネジメントレスポンス(内部監査人の指摘事項に対してのコメント)という意見表明ができることになっていて、そこで問題がないことを証明して拒絶するか、問題の存在を認め、具体的に期限を記載して改善策を提示するかの、二者択一です。えっ、こんなことが起きてたの?って驚くような、前任者の不備も少なからずありました。また米国本社での規定がアメリカの商慣習をベースにしていて、銀行取引等で日本の商慣習にそぐわないものもありました。
不備として認めたものは、すべて半年以内に改善すると具体的に実行施策を含めて記載しました。
商慣習の違いは、「誰になんと言われようと、会社の管理方針の趣旨を踏まえたコントロールを効かせるが、日本国内で適用可能な実務上の取り組みしかできないので、形式的に異なるが、実質的にコントロールが効いている状態を構築する」と。
出来る、やると言って、あとから「出来ませんでした」という言い訳は一切したくなかったので、「こんなことでクビにするなら、好きにしろ!」と、開き直って回答しました。これを認めてくれた日本法人の社長にも感謝です。
その後、日本担当役員が出張で来日した際に、日本法人の社長と私の二人だけが呼ばれました。彼の手には、自分あてにマーカーがついた内部統制報告書がありました。
彼は「俺は、君のコメントを含めてすべて目を通した。この中に、出来そうもないことが含まれているなら、今、この場で言いなさい。」と切り出しました。
私は、「出来ないことは一切書いていないし、内部監査担当にも、社長にもその旨を伝えて、合意を取り付けている。厳しいが、必ずやり遂げてみせる」と発言したところ、彼はにっこり微笑み、「じゃ、これはもう要らないな」と言ったあと、そのレポートをびりびり破って、ごみ箱に投げ捨ててしまいました。
「では、この話は終わり、さあ、業績拡大に向けて、頑張ろう」で終わりました。
直接、面と向かって、このような接し方をされ、期待されていることがわかると、「これは必ずやりとげないといけない」と、心の底からやる気が湧いてくるのを、感じることができた瞬間でした。
とても不安で、暗いトンネルの中を進むような初年度でしたが、逃げずに、恐れずに立ち向かっていき、やるべきことを愚直にやり続けると、周囲に伝わるんだということを、リアルに学ばせてもらった出来事でした。