日本法人M&Aによる買収時の出来事
サービスライン廃止に伴い、退職を希望される方が続出
米国本社が、売上金額、事業展開国数、社員数等、どの数値をとっても2倍の規模の企業を買収したことがありました。日本においても、製造工場をもつ日本法人があり、日本法人同士を合併させる手続きが必要でした。
CFOとして、事業計画や、人事・組織、情報システム、会計処理等、様々な合併に向けた手続きを進めていきました。そうした中で、買収時に廃止するサービスラインがあり、本社での買収を受けて日本法人は合併することと、その時点でサービスラインを廃止することを発表すると、事業廃止実施日を前に退職を希望される方が出始めました。
想定されていたことではありましたが、その期間を残ったメンバーで乗り切る必要があり、日本法人合併までは先方のマネジメントに委ねざるを得ず、意思決定には参画するも間接的にしか動けない時期があり、もどかしい思いをしました。
定年の規定がないアメリカと定年制のある日本との間で発生した問題
そんな状況において、影響の大きい重大な決定がなされました。
合併時に様々なルールを統合、改編していくわけですが、問題になったのは定年の規定でした。私の会社は満60歳、合併相手の会社は、65歳。アメリカには、年齢差別になるとの考えから、定年という規定はありません。あるのは自分が辞めたいときに辞めるという慣行です。
米国本社、香港の地域本社と日本のマネジメント間で議論がされ、日本には定年制があり就業規則に規定されているので、何かしら規定として決定しなければならないことは了解されました。結果として、雇用延長の対応をする可能性はあっても、規定としては満60歳の買収側のルールを適用することに決まりました。
問題は先方企業に、60歳超65歳未満の方が、3人いらっしゃって、その方々に変更決定をお伝えして、了解をいただく必要があることでした。この3人の方は、東京の本社勤務でなかったことと、手続きを進めるタイミングの問題もあり、私が3人の方、お一人お一人に電話でお伝えすることになりました。もちろん、本来は直接お会いして伝えるべき3人のみなさんにとっては、とても重要な事項であることは間違いありませんが、合併作業のスケジュール上、失礼ながら、電話でお伝えせざるを得ませんでした。その電話での会話において、皆様に誠心誠意背景や検討経緯もお伝えをし、会話は各々1時間以上かかりました。納得できないと、強烈にお叱りも受けました。本当に長い電話でした。
しかし、3人の皆さん全員、その電話の最後には、「伊藤さんが悪いんじゃなく、そういう状況ならこの決定になるのは理解できるし、あとは若いみんなが元気で働ける良い会社にしてくれ」と3人とも、一回の電話で了解していただけました。本当にあのご了解いただけたことは、今でも、感謝の思いしかありません。
その後、忘年会等の会食でご一緒した際には、息子のような年齢の私を呼んで近くに座らせていただき、「後は頼むよ!ここはこんな課題があるから、こういう風に助けてやって」とアドバイスまでいただくことができました。このような出来事のおかげで、合併前に、先方の会社のみなさんと共通の目標を理解しあって、相乗効果を生み出す、最初のステップを踏み出すことができました。